全都道府県訪問#44 鳥取県(&島根県)#2〜足立美術館

足立美術館の枯山水庭

 第2日目は幸い台風一過の晴天で、まず鳥取県米子市にある皆生温泉から島根県安来市にある足立美術館に向かいました。足立美術館訪問は今回の旅の主な目的の一つでした。そういえば、皆生温泉ではエノハ、アゴ、そしてエテカレイという余り聞き慣れない魚を食しました。いずれもとても美味だったのですが、それぞれ何の魚でしょうか。調べてみると、エノハとはヤマメ(山女)の西日本地方での呼称、アゴとはトビウオ(飛魚)の日本海側の呼称、そしてエテカレイとは山陰沖や日本海側で獲れる小型のカレイ(鰈)のことのようです。アゴというのは、何やら「顎が落ちるほど美味しい魚」を短くした言い方との説もありました。
 足立美術館は、横山大観の約130点を数えるコレクションで著名なことはもとより、5年連続日本一になったその日本庭園で最近特に有名になりました。米国の日本庭園専門誌「ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」が発表する「日本庭園ランキング」において、2003年から今年2007年まで5年連続で足立美術館の日本庭園が「庭園日本一」に選出されております。「庭園もまた一幅の絵画である」とした、本美術館の創始者の足立全康(あだちぜんこう)氏(1899〜1990)の想いと庭造りへの情熱を生き生きと伝える5万坪の日本庭園です。足立氏は地元出身の実業家で、一代で財を成し、独力でこの美術館を作り上げ、1970(昭和45)年に開館に漕ぎ着けた人物です。
 世界一の日本庭園を若干ご紹介しましょう。まず、美術館東側にある正面玄関を入って最初に出合う「迎賓の庭」です。枯山水庭を中心とする、借景も含めた雄大な景色です。
 次は苔庭です。現地の解説板によれば次のとおりです。

 杉苔を中心とした、京風の雅な庭園です。
 手前の石橋から飛石を眼で追ってゆくと一文字橋と太鼓橋にいたり、その間を流れるせせらぎが見所です。この庭園の赤松はすべて斜めに植栽されていますが、これは樹木というものは山の斜面に対してある角度をもって生えており、それを庭内に植える時に、その角度を尊重して植栽しているからです。

 そして、美術館の主庭である枯山水庭(写真)です。建物の北側にあるので、建物の影が写真に写っております。ホームページでは次のとおり解説しています。

 画面中央に配置されている三つの立石は、峻厳なる山をあらわし、そこから注ぎ込まれた水が渓流となり、大河となって流れ行く様を、枯山水という伝統的な手法をもちいて表現しています。
 また背景には、16世紀半ばに毛利と尼子が合戦した際、毛利軍が陣を張ったといわれる勝山がそびえており、この庭をいっそう見ごたえあるものにしています。

 次は亀鶴の滝です。ホームページでは次のとおりに解説しています。

 昭和53(1978)年に開館8周年を記念して開瀑した高さ15メートルの人工の滝です。滝口から勢いよく流れ落ちる水の躍動感が、雄大な景色に適度な緊張をあたえています。

 次は、枯山水庭とは建物を挟んで反対側、つまり南側にある池庭です。現地の解説板によれば次のとおりです。

 この庭園の石橋から右の部分は当館の庭園では一番古いもので、昭和43(1968)年頃から造園されたものです。昭和45(1970)年11月に当館が開館したときには、ここが玄関になっておりましたが、昭和59(1984)年4月に「横山大観特別展示館」を増築し、その折に池を中心とした庭園に改造したものです。池の水は地下水を使っておりますため、冬場におきましても鯉が冬眠することなく泳いでおります。

 最後にまた北側に移動して、白砂青松庭を鑑賞しました。やはり現地の解説板によれば次のとおりです。

 この庭園は、横山大観の名画「白砂青松」(昭和30(1955)年作)のもつ雰囲気を、日本庭園で表現すべく、当館創設者足立全康が作庭したものです。白砂の上に点在する大小の松が見所です。また滝と川を中心として右側は黒松(男松)を使った男性的な庭園。左側は対照的に赤松(女松)を使った女性的な造園になっています。

 ここまでに相当な時間を費消しましたが、美術館の2階に昇って、これからがいよいよ本物の芸術鑑賞です。館内には、横山大観を始め、武内栖鳳、川合玉堂橋本関雪、榊原紫峰、上村松園など、近代日本画壇の巨匠達の作品1,300点を収蔵しているとのことです。もちろん全作品を同時に展示するスペースはありません。そうそうここでもICレコーダー風の音声ガイドを貸し出しており、日本庭園と展示作品の内20点程の解説を聴くことができました。また、ギャラリートークとして、学芸員が午前に日本庭園について、午後に横山大観の作品について解説して下さいます。しかし、午後は出雲大社に向かうため、美術館には午前中しか滞在しなかったので日本庭園についての解説しか聴けませんでした。夏季特別展の企画として「あなたが選ぶこの一点!」というものもありましたが、私は上村松園の「娘深雪(むすめみゆき)」(大正3(1928)年作)という作品を選びました。
 足立全康氏が横山大観の絵を集めたいと思うようになったきっかけが、「雨霽る(あめはる)(山海二十題之内・昭和15(1940)年作)」という作品に出合ったことだとのことです。墨だけで描かれた素晴らしいこの作品も展示されておりました。どんな作品か興味がある方は、足立美術館ホームページで収蔵品のご紹介のページをご覧下さい。

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